塗装に関する資格は、免許書のように“それがなければ業務を行えない”という種類のものではありませんが、「塗装に関して必要とされる仕事をきちんと果たせる」または「プロの職人として求められる高いクオリティーを提供できる」という立派な証明になります。
塗装業に関する資格はいろいろありますが、その中でも特に名の通った「塗装技能士」という資格について、今回はご紹介します。
塗装技能士とはどんな資格?
塗装技能士とは、塗装に関する十分な技術と能力を有していることを、厚生労働省によって認定される国家資格です。
塗装業者に塗装技能士が在籍しているなら、より規模の大きな塗装工事事業を受注しやすくなりますし、技能士個人としても資格手当てとして報酬アップを目指すことができます。
塗装技能士の資格は「1~3級」に等級が分けられています。
また、一言で「塗装」といっても何を塗装するかによって求められる技術や知識が異なるため、塗装技能士の資格試験内容は、
など、分野ごとに分けられています。
くりはら塗装が専門にしている屋根・外壁塗装は「建築塗装」に分類されますので、この記事では特に「建築塗装」の1級・2級資格試験についてご説明します。
塗装技能士の試験には学科と実技があり、受験資格も必要
塗装技能士になるためには「学科試験」と「実技試験」という2種類の試験に合格しなければなりません。
学科試験
塗装技能士の学科試験では、塗装に関して、
などに関する設問に、「真偽法」か「四肢択一法」で答えていきます。
問題数は50問で、100点中65点以上で合格です。
実務経験が長ければ「学科試験なんて余裕!」と思ってしまいがちですが、現場で使っている俗語や符丁ではなく、正式名称で出題されるため、経験だけに頼っていると正確に答えるのはなかなか難しいものです。
過去問題集などを用意して、しっかり勉強しましょう。
実技試験
塗装技能士の実技試験では、ベニヤ板にパテ塗り、ケガキ、調色、ハケやスプレーによる塗装などを行なって、仕上がりを判定します。
実技の試験時間は5時間で、所定の時間内に塗装を完了させるだけでなく、片付けまできちんと終わっていなければなりません。
実技試験の採点方法は減点方式で、100点中60点以上で合格となります。
実技に使う道具は指定されたものでなければなりませんし、課題は図面を元に出題されるので、図面を読む能力や、コンパスや定規といった普段の実務では使用しない道具の使い方になれる必要もあります。
そのため、実技試験に合格するためには「普段の現場で作業している通りにやっていればOK」という考え方を捨てる必要があります。
普段とは違う道具・環境で、図面と文書によって指定された条件に従って塗装しなければならない実技試験では、合格のためにはとにかく練習あるのみ。
下記に紹介する講習会に参加したり、同じ職場に塗装技能士の資格試験に合格した先輩たちがいれば指導を仰いだりして、とにかく一生懸命練習しましょう。
受験資格
塗装技能士の資格試験を受験するためには、等級ごとの受験資格を満たしている必要があります。
受験資格は下記の通りです。
また、合格率は40%前後となっています。
この合格率で「2人に1人は受かる」と考えると簡単なように思えるかもしれませんが、受験者の中には過去に受験して失敗している人もたくさん含まれていることを考えると、「一発で合格する」という確率は決して高くありません。「塗装技能士試験は難易度の高い試験だ」と思って取り組む必要があります。
塗装技能士の資格取得にかかる費用は?
塗装技能士の資格を取得するためには、下記のような費用がかかります。
受験費用
塗装技能士の受験手数料は、1級・2級ともに下記の通りです。
※受験手数料は年ごとに変更になることがあります。また、都道府県によって多少異なる場合があるので、必ず公式ホームページで最新情報を確認するようにしてください。
★35歳以下なら受験費用は減額される!
平成29年度後期試験から、若い人がより受験しやすくなるよう、35歳以下の人は実技試験の受験手数料に関して最大9,000円の減額を受けられるようになりました。
いつまでこの制度が続けられるかはわかりませんが、若い塗装工の皆さんにとっては素晴らしいチャンスですので、この機会にぜひ技能試験に挑戦していただきたいものです。
道具代
ハケやローラー、バケツなど実技試験用の道具は、すべて自分で用意しなければなりません。
ネットを探せば「○級塗装実技試験 使用工具セット」などの商品名でセット販売しているものもあり、基本的な道具は20,000円前後で揃えることができます。
どんな道具が必要か、最新情報をしっかり確認して、もれなく用意するようにしましょう。
講習費用
塗装技能士のための説明・講習会には下記のものがあります。
- 日本塗装工業会 千葉県支部主催による 建築塗装技能検定講習会の費用
- ※2023年度
なお、ここで言う「会員」とは各都道府県の塗装協会、または日本塗装工業会に加入している会員を指します。
建築、鋼橋などの分野や、主催する支部などによって講習会の費用が異なりますのでご注意ください。
講習会は受けなければならないものではありませんが、実技事前講習会に関しては、参加するのとしないのとでは合格率にかなり大きな違いが出てきます。下記に詳しく解説しますが、講習会には参加することを強くお勧めします。
教材費用
事前講習会の教材費用は講習会費に含まれていることが多いです(主催者にご確認ください)。
過去問題集は3,000円ほどで入手可能です。
中古で安く手に入ることもありますが、真剣に合格を目指したいなら必ず最新版のものを使うようにしましょう。
また、インターネット上には過去問題を無料で公開しているサイトもありますので、併せて活用すると良いでしょう。
塗装技能士資格試験合格のために2つのポイントだけ押さえておこう
1.実技講習会は必須ではないものの、かなり重要
上にも少し書いていますが、各地の塗装業者関連団体が主宰している実技試験の事前講習会は、参加していないと合格はかなり難しくなるでしょう。
特に、実技試験の事前講習会に参加するのには下記のようなメリットがあります。
実技試験の限られたスペースを体で覚える
塗装技能士の実技試験では、受験者に2m×2mのスペースが与えられ、その床の養生から試験が始まります。
このスペースは作業をするには意外と狭く、何も知らないで試験に臨むと感覚が掴めずうまく作業できない可能性が高いでしょう。
また、トイレや休憩のために作業スペースを離れるときには、必ず作業場を片付けてから離れなければならないというルールもあります。
狭いスペースを手早く片付けるためにはどんな動きで作業すべきか、持参する道具ケースのサイズや形状はどんな形状が良いのかなど、細かな作戦をきちんと立てておくことも合否を分ける要因になります。
このように、実技試験の「現場感」をつかみ、落ち着いて試験に臨むためには実技講習会への参加は意義があるでしょう。
支給品は再支給されないため、無駄にしないコツを学ぶ
実技試験に使用する塗料は支給されますが、無くなったからといって再支給されることはありません。
つまり、調色の際に色を濃くしすぎてしまったがベースになる白色系の塗料を使い切ってしまった、となっても、塗料は再支給されないため、修正は不能ということになります。
塗料は何がどれだけ支給されるのか、またそれらをうまく活用するため、調色はどんな手順で行うと良いのか、といった細かい点を学ぶのも、事前講習会以外では難しいでしょう。
2. 普段の塗装の仕事を真剣に取り組む
上で『試験に合格するためには「普段の現場で作業している通りにやっていればOK」という考え方を捨てる必要がある』とは書きましたが、もちろん普段から自分の仕事に真面目に取り組んでいることは、塗装技能士試験に合格する上でも大きな力になります。
塗装技能士試験合格のためには現場で学べることだけでは不十分なのは事実ですが、実技試験は塗装職人としての実力が試される場でもあります。
普段の現場から、最大限のクオリティーを目指す職人魂を持って仕事に取り組んでいれば、合格する確率もぐっと高くなるはずです。