最近の建物の金属屋根はガルバニウム鋼板のものが人気ですが、昔は金属屋根といえばトタン屋根でした。
今ではほとんど住宅の屋根材としては使われなくなったトタンですが、工場や倉庫などの屋根材として使われていることがあります。
トタン屋根とは?屋根材としての特徴
トタンとは亜鉛メッキを施した薄い板状の鋼板のことで、特に建材として使用されるものを指します。建材に使用されない場合には単に「亜鉛めっき鋼板」と称されます。
トタンの表面にメッキ加工された亜鉛は金属の一種ですが表面に「酸化皮膜」という腐食に強い膜を作る性質があります。傷がつくと酸化皮膜が壊れてサビが始まるんですが、表面の亜鉛の錆がまた一緒の保護膜となって内側の交番を錆から守る働きをします。いわば、サビから二重にガードする性能を持っているのがトタンの大きな特徴です。
この性質によってトタンはサビに強い金属製建材として幅広く使用されてきました。
外壁に使用されることもありますが、主には屋根に施工した「トタン屋根」として知られています。
トタン屋根の形状には主に、
という3種類があります。
トタンではない、「トタン」と勘違いされる波板屋根
一般的には「トタン=波板」というイメージも少なからずあるようですが、「トタン」は素材の名前で、「波板」は形状の名前です。
もちろんトタン製の波板屋根もありますが、トタン以外にも
など、さまざまな素材の波板があります。これらは屋根やカーポート用の庇(ひさし)、倉庫や物置の外壁など、素材の特性に応じてさまざまな場所に活用されています。
同じ波板の形状であっても素材が違えば施工方法も塗装メンテナンス方法も異なりますので注意したいところです。
トタン屋根のメリット・デメリット
トタン屋根のメリット・デメリットを覚えておけば、屋根材選びやメンテナンスの検討などに役立ちます。
トタン屋根を他の屋根材と比べると、下記のようなメリット・デメリットがあることを覚えておきましょう。
トタン屋根のメリット1:軽量で地震に強い
トタン屋根のメリットとしてまず挙げられるのが軽さです。
トタン屋根がどのぐらい軽いかというと…
程度の軽さなんです。軽量さに定評のあるガルバリウム鋼板の約半分ですから、かなり突出した軽さであることがわかります。
さらに屋根が軽量であるということは、
という、建物の寿命や安全などの点でも大きなメリットにつながります。
トタン屋根のメリット2:低コスト
トタン屋根は材料費が安い上に施工も比較的カンタンなので、とてもリーズナブルな屋根材です。
トタン屋根の費用相場を、その他の人気のある屋根材と比較するとおよそ下記のようになります。
上記の通り、トタンはかなりコストをおさえられる屋根材ではありますが、スレート屋根と比べると同等か少し安い程度となります。
この辺の費用差が、近年ではスレート屋根が普及しトタン屋根が減少している一因となっているところでしょう。
トタン屋根のメリット3:雨漏りに強い
トタン屋根は小さな屋根材を張り合わせるのではなく、大型の板で葺くことができるため、雨漏りが生じにくいというメリットがあります。
さらに継ぎ目が少ないトタン屋根は、勾配のゆるい屋根でも雨漏りを防ぎやすくなります。
ただし、トタン屋根を固定する傘釘が抜けたり、錆びてトタンに穴が開いたりすると雨漏りが始まります。
メンテナンスする時はこのようなサビや釘抜けに注意しましょう。
屋根のデメリット1:耐久性が低い
下記の通り、トタン屋根は他の屋根材と比べて耐用年数があまり長くありません。
さらに、トタンは日射などによる温度変化が激しく、塗装の劣化も他の屋根材より早く進行してしまい、色あせやチョーキングが生じやすくなります。
トタン屋根のデメリット2:防音性・断熱性が低い
トタン屋根の薄さ・軽さは長所である反面、防音性や断熱性の点では短所にもなります。
つまり、
などのデメリットがあります。
トタン屋根にするかどうかを検討する時は、住環境にとってマイナスになる要素もよく検討した上で判断しましょう。
トタンとガルバリウム鋼板の比較
近年、トタンにとって変わって金属製外装材の主流になっているのが「ガルバリウム鋼板」です。
ガルバリウムは鋼板を「亜鉛+アルミニウム+ケイ素」でメッキ加工したものなので、亜鉛にとても近い素材なんですね。しかし、トタンに比べて強度が高く、海岸近くの塩害地域でも耐用年数15年以上と言われています。
さらにガルバリウム鋼板はトタンよりデザインも豊富で、クールでモダンな建材というイメージが定着しています。
このようにガルバリウムの登場により、トタンは住宅向けの建材としてはあまり使用されなくなってきているようです。
それでも、いまも現役のトタン屋根もたくさん存在しています。
一般的な戸建住宅のトタン屋根でよく見かける形状に「立平葺き屋根」というタイプのものがあります。
立平葺き屋根では、屋根の棟から軒先まである長いトタンの板金を横方向に重ねて施工します。
立平葺き屋根はトタンを重ねる方法は主に下記の2種類があります。
1:巻きはぜタイプ
吊子(つりこ)という断面がL字の長い金属部材を屋根の垂木に沿ってを打ち付け、板金の重なり合う部分を吊子を挟んで巻き込むように重ね合わせる施工方法です。このように重ねた部分を「巻きハゼ」といい、この方法で葺いた立平葺き屋根は瓦棒葺き屋根のような見た目になります。
2:かん合(かんごう)タイプ
トタン板の両サイドがジグソーパズルの凹凸のようにしっかりかみ合うように形成されたトタン板を、はめ合わせながら屋根に葺いていく方法です。
かん合式の板をビス打ちし、打ったビスが隠れるように金属板を重ねてはめ込むだけなので、簡単でスピーディーに施工できます。
とはいっても、近年のかん合タイプ屋根はほとんどガルバリウムが使用されているようです。
トタン屋根はどんな建物の屋根に使われている?
すでに触れたように、今では住宅の屋根としてほとんど見られなくなったトタン屋根ですが、
などの屋根材として使われていることが多いようです。ちなみに、屋根材以外では雨樋やダクトなどにもトタンは活用されています。
トタン屋根は「軽い・安い・勾配が緩やかでも施工できる」というメリットがあるため、大きな建物や物をおくためのスペースの屋根として使われることが多くなっています。
しかし、「サビやすい・熱くなりやすい・雨音がうるさい」という理由から住宅の屋根材には向いていなくて今ではあえてトタン屋根を住まいの屋根として選ぶことはほとんどありません。
トタン屋根の寿命は?
先述の通り、トタンの寿命は10〜20年ほどです。
具体的には、
といった順番に劣化が進行していきます。
このような劣化は、定期的に塗装メンテナンスと錆落としを行うことである程度防げますが、寿命を長持ちさせるには通常の屋根より早い5年程度のスパンで行う必要があります。
トタン屋根のメンテナンス、塗り替えの時期は?
サビやすいという弱点のあるトタン屋根は、定期的なメンテナンスがとても大切です。
サビのほかにも、屋根をチェックして
という症状が見られたら塗り替え時期のサインなので、塗装を考えましょう。
トタン屋根の塗装は以下のような手順ですすめます。
●ケレン作業
まずは、ワイヤーブラシやヤスリを使ってトタンに付着した汚れやサビを取り除いていきます。
表面に細かいキズが付くことで、新たな塗料が密着しやすくなります。
●高圧洗浄
高圧洗浄機を使用して屋根全体を洗い流し、古い塗膜やゴミを除いておきましょう。
●下地処理
釘が抜けている箇所やひび割れがあれば、補修しておきます。
●下塗り
トタン屋根にはサビ止め効果のある下塗り材を選び、塗布します。
●中塗り・上塗り
上塗り材を2回塗ったら完成です。
トタン屋根の修理方法は?
トタン屋根の寿命は長くなく、10〜20年ほどと考えておくと良いでしょう。塗装メンテナンスがされていなかったり、海が近く屋根が錆(さ)びやすい環境だったりするなら、トタン屋根の寿命はさらに短くなります。
トタンが劣化するとまず錆(さび)が生じ、サビが薄いトタンを侵食すると穴が開き雨漏りが始まります。
トタン屋根では、錆の程度に合わせて下記のような修理方法があります。
●表面が少し錆びている程度の場合
錆をきれいに落とし、錆び止め効果のある塗料で塗装します。
●錆がトタンを侵食し、小さな穴が空いている場合
錆を落とし、穴が空いている部分にグラスファイバー製のメッシュテープを貼り、その上からパテで穴を塞ぎます。パテはセメントや樹脂などを配合したトタン修理専用のもので、メッシュテープと合わせて「トタンなおし」などの商品名で販売されています。
●錆が屋根全面に広がり、パテでは塞げない穴がたくさんある場合
塗装でもパテ埋めでもメンテナンスできなければ、屋根は葺き替えかカバー工法を検討しなければなりません。
トタンを撤去して葺き替える場合には屋根材を比較的自由に選べますが、既存のトタンを撤去せず上から新しい屋根材で覆う「屋根カバー工法」の場合には、選べる屋根材は限定されます。大抵の場合、屋根カバー工法では薄くて軽量、かつ頑丈なガルバリウム鋼板が使用されます。
トタン屋根の施工費用は?
トタン屋根に関する施工費用の目安は下記の通りになります。
住宅の屋根の葺き替えの場合、トタンからトタンへ吹き替えるより、可能ならカバー工法でガルバリウム鋼板葺きとする方が総合的なコストは下がる可能性もあります。
安価で取り扱いやすいトタン屋根ですが、採用するかどうかは居住性やコストパフォーマンスなどを総合的に判断しましょう。